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去る2021年5月17日、Epic Games様主催の「Unreal Fest Extreme 2021 Summer」にスピーカーとして参加させていただきました。当日ライブでご視聴くださった皆様、Q&Aセッションにご参加いただいた皆様、ありがとうございました。
当日は、事前に録画した動画配信とライブでのQ&Aセッションという構成でしたが、当日の配信内容について、おさらいしてみようと思います。
今回は、「バレンシアガ『Afterworld: The age of tomorrow』の舞台裏」と題して、バレンシアガ(Balenciaga)の公式ホームページで2020年12月6日より期間限定で公開されていた、秋コレクション発表を目的に制作されたゲームの、制作裏話について紹介しました。
今回のゲームは、独特な、ある種の神秘性を帯びた、冒険の旅を描いたものでした。時折現れるバレンシアガのコレクションからのコスチュームを引き立たせ、またプレイヤーにバレンシアガが意図した世界に没入させるために、どういった技術を用いたか、また制作期間どのようなことを重要視してきたか、プロダクションチームから4名が代表でお話し致しました。
進行は、Day Zero by Streamlineより、和田が担当しました。
まずは、プロジェクトマネージャーを務めたStreamline Studiosサビナ・オンよりアート制作側の管理についてお話しました。
アート制作においては、ゲームのテーマや雰囲気を理解し、どのようにバレンシアガ側が求めるビジュアルワールドを作り上げるかが課題となったと話しています。また、新しい技術であるボリュメトリックキャプチャを合わせたときに、上手くシステムが機能するよう検討しなければいけないこと、制作期間が短かったことが、難しかった点として挙げられました。
こういった課題を乗り越えるために重点を置いたのが、コミュニケーションだった、とサビナは話しています。ボリュメトリックキャプチャを専門とする、Substance & Inhaltと綿密に連携を取ることで、修正等が必要な時にすぐお互い対応できるようにしたといいます。また同様に、是が非でも最終ゴールにたどり着くようにすることに、重点に置いたとも付け加えていました。
ただ、それだけでは限界があったため、アートチームをレベル制作チームと、アセットやプロップ制作のチーム、キャラクター制作チームに分けることで効率よく制作を進める、という戦略を打ち出しました。レベル制作チームは、クイクセルメガスキャンやUnreal マーケットプレースのアセットなどをうまく利用することで、直接Unreal Engineにアセットを入れたり、エンジン内でゾーンを作ったり、ゲームに使用準備ができているアセット数が多かったことが良かったことだと話しています。プロップチームは、マーケットプレイスからのアセット以外に、更にゲームに対応していない現実世界のアセットを制作しましたが、マーケットプレイスをうまく利用したからこそ、プラスでの制作を行う余力が生まれたといいます。キャラクター制作チームは、20体のNPC制作に取り組みましたが、メタヒューマンが導入される前だったので、全て制作を行わなければいけなかったのが、大変だったとサビナは話しています。ここではキャラクタークリエーションツールを上手く使用したことで、制作したモデルと、マーケットプレイスからのアセットを組み合わせてゲームに実装できたことだ、と締めくくりました。
次に、シニアゲームデベロッパーのマンソワ・アンワルより、開発中に検討した点や、懸念点等をお話ししました。
まず、ゲームデザインについて、進行中に問題になりそうな点を洗い出し、精査を行ったといいます。まず、新しい技術であるボリュメトリックキャプチャが上手く動作するよう、定義付をしっかり行い、Substance & Inhaltと協力し、しっかり最適化されているようにしたといいます。クライアントであるバレンシアガの求める、「ミステリアス」な雰囲気を出すのに、ふと振り返った瞬間にキャラクターが目の前に現れる、といった演出のために、ボリュメトリックキャプチャを表示・非表示させる方法について、いろいろなアイディアを出しながらプロトタイプを制作したといいます。
それと並行して、動きの滑らかさや、実装方法についても検討する必要があったと話します。そして、今回のプロジェクト進行の戦略として、早い段階でデザインを確定し、プロトタイプを制作したことで、プランニングを上手く立てられたことが、秘訣となったと話しています。そして、ボリュメトリックキャプチャを使用したことで、没入感を出し、神秘的な雰囲気を出すことができたと、纏めました。
続いて、プログラマーのラメッシュ・バラチャンドランより、パフォーマンスと最適化についてお話しました。
ボリュメトリックキャプチャを大量に使用するということは、処理落ちに注意しなければならず、そのため最適化を確実に行ったと話しました。様々な要素を検討した結果、Unrealで動画を使用する方針を固めだといいます。また大量に使用されている動画について、使用量を減らすなど最適化する必要があったといいます。そのため採用したのはCSVプロファイラと、Gauntlet オートメーションフレームワークの組み合わせで、QAの効率化を図りました。CSVプロファイラでのグラフを使用し、処理落ちしている箇所を正確に把握することができたと話します。
また他の最適化の検討事項は、ゲームのNPCのアニメーションについてや、レベルストリーミングについてだったといいます。レベルストリーミングは、プレイヤーが今いるレベルのみ実行し、またゆっくりストリームイン・ストリームアウトするようにしたようです。Unreal Engineのレベルストリーミングボリュームと、ブループリントのカスタム設定を使用したことで、実現したといいます。一方で、NPCのアニメーションに関してはUnreal Engineのアニメーションシェアリングプラグインを使用し、シェアアニメーションを使うことでキャラクターごとに大量にデータを使用する必要がなくなり、大量のNPCの実装を実現できた、と成果として締め括りました。
最後に、プロデューサーのイザール・アマーニより、今回のプロジェクトの他の専門会社とのコラボレーションについてお話しました。
今回のプロジェクトでは、Ubitus、Substance & Inhalt などの協力を仰いでの制作だったため、各社との連携、すなわちコミュニケーションが最も重要だったと話します。初期段階で各社業務分担を決めましたが、どの会社も重要な部分を担っており、全てが上手く回るよう、細かにミーティングを設けたと話しています。また、あとから急に問題が出てきたりするのを防ぐ意味で、プロジェクトの早い段階で使用を固めるようにした、と話します。
また、総指揮を執るプロデューサーとして、今回のような規模のプロダクションに参加することはとても面白く、こんなに大量のボリュメトリックキャプチャを使用した例は今までにないはずだ、と話しています。併せて、こういった機会に世界中の才能ある人々と共同制作を行えたことが、プロジェクトの醍醐味だったと語っています。
いかがでしたでしょうか。今回の動画については、ゲーム開発の技術者以外の皆様にもご覧いただいていましたが、プログラミングやゲームデザインなど、普段業務で使用することのない内容について、少しでも興味を持っていただけたり、仕事で何か作る際の新しいひらめきになったりすると嬉しいな、と一同考えています。
さて、今回のUnreal Fest Extreme 2021 Summerについては、この他にQ&Aセッションについてと、講演動画の制作過程についても纏めておりますので、ご興味のある方は、ぜひそちらもご覧ください。
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